Why Inventory Alone Cannot Build Resilience
| 在庫は「時間」をつくる。しかし、その時間の中で供給を回復するのは、企業の組織能力である。 |
在庫は、供給を守るために欠かせないものです。需要の変動、生産の遅延、輸送障害などが発生した際、安全在庫はその影響を吸収し、企業に対応するための時間を与えます。
しかし、ここで重要な違いがあります。在庫は時間を買うことはできますが、供給を回復させることはできません。これが、在庫とレジリエンスの本質的な違いです。
在庫が解決できる問題と、できない問題
短期間の製造遅延や一時的な需要変動であれば、在庫は極めて有効です。
一方で、重大な品質問題、原薬供給の長期停止、製造所閉鎖、大規模災害、地政学リスク、代替製造所への技術移管などが発生した場合、問題の性質は異なります。
供給停止が在庫で耐えられる期間を超えれば、どれだけ安全在庫を積み増しても、最終的には供給が途切れます。
英国Government Office for Scienceが2026年に公表したGlobal Supply Chains: A Foresight Report on Risk and Resilienceは、レジリエンスを単一の対策ではなく、企業レベルの能力、サプライネットワーク構造、外部脅威など複数の観点から捉える必要性を示しています。
つまり重要なのは、どれだけ持っているかだけではなく、何かが起きたときに供給構造を変えられるかです。
単一依存のリスクは、在庫では解消できない
一つの原薬メーカー。一つの製造拠点。一つの包装ライン。一つの試験施設。一つの物流ルート。
こうした単一依存が供給網の中に存在する場合、在庫を増やしても構造的な脆弱性そのものは残ります。
もちろん、すべてを二重化すればよいわけでもありません。製造拠点やサプライヤーの追加にはコストがかかり、医薬品の場合には技術移管、バリデーション、品質、規制当局の承認なども必要となります。
したがってレジリエンスは、「可能な限り冗長性を増やす」ことではなく、リスクと患者影響、復旧期間、コストを踏まえて、どこに柔軟性や代替能力を持つべきかを設計することです。
OECDは2024年のPolicy Paperで、通常時の混乱と予期しない極端な混乱では必要な対策が異なり、サプライチェーン全体のパフォーマンスに焦点を当てる必要があると整理しています。
レジリエンスとは「回復する能力」である
AXION PARTNERSは、レジリエンスを単なる物理的バッファーではなく、複数の能力の組合せとして考えます。
まず、供給構造と脆弱性を把握すること。次に、異常の兆候を早く捉えること。そして、代替原料、代替製造、在庫再配置、生産配分変更、輸送ルート変更などの選択肢を準備すること。さらに重要なのが、判断と実行です。
「代替製造所があります」という説明と、「必要なときにその代替製造所へ切り替えられます」という説明は、全く違います。実際に切り替えるためには、契約、技術移管、品質、規制、原材料、設備、キャパシティなどが整っていなければなりません。
| 代替供給先が存在することと、必要なときに実際に切り替えられる状態にあることは同じではありません。 |
在庫政策を「回復時間」から逆算する
在庫水準を決める際には、単なる過去需要やサービスレベルだけでなく、供給回復までに必要な時間を考慮する必要があります。
例えば、ある供給障害が発生した場合に、代替手段を稼働させるまで9か月かかるのであれば、その9か月をどう乗り切るのかを考えなければなりません。
すべてを在庫で埋めるのか。一部を安全在庫で吸収し、残りを複数の供給能力で対応するのか。需要配分や代替製品まで含めて設計するのか。ここで在庫は初めて、レジリエンス戦略の一部になります。
AXION VIEW
| 本当に問うべきなのは、「在庫がなくなるまでに、供給を回復できるのか」ということです。 在庫は必要です。しかし、在庫を増やすこと自体を「レジリエンス強化」と呼ぶことには注意が必要です。レジリエンスとは、ショックを防ぐ能力だけではありません。変化を捉え、影響を吸収し、判断し、構造を切り替え、供給を回復する能力です。 在庫は、そのための時間をつくります。そして、その時間を使って供給を守るのが、企業の組織能力です。 在庫はレジリエンスの重要な構成要素です。しかし、在庫そのものがレジリエンスなのではありません。 |
参考資料
以下は本文中で参照した公的・一次資料です。閲覧確認日:2026年9月4日。
3. European Medicines Agency, “Good practices for industry for the prevention of human medicinal product shortages,” first published May 17, 2023. 本稿は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件に対する法務・規制・品質保証上の助言を構成するものではありません。
